Echelon Index

エシュロンとNSA
(Vladimir: webmaster@infovlad.net)

昨年(1999年)末、長いあいだ秘密のベールにつつまれていた情報機関、アメリカのNSA(National Security Agency・国家安全保障局)が世界の耳目を集めた。
それは盗聴疑惑だった。情報機関がプライバシーを侵害しているという可能性に対する、世界的な反発からであった。

 インターネット上では、ここ数年というもの、事実上世界中のあらゆる電子メールとファックスのトラフィックを途中で捕らえ、自動分析にかけるてしまう大規模なシステムについての噂がネットでささやかれ続けてきた。このような行為を規制する各国の法律があるにもかかわらず、だ。
 いまから半世紀以上も前に、5カ国が協定を結び、法的問題の裏をかきつづけてきたのである。
アメリカ合衆国政府が自国民にスパイ活動を行うのは違法だ。イギリスも同じ。
しかしUKUSA (米英間の合意) により、イギリスはアメリカでスパイ活動を、またアメリカはイギリスでスパイ活動を行い、両国はデータを交換することができる。 このような行動は、法律の専門的見解では合法なのかもしれない。しかし両国の法律がもっているはずの、市民を守るという精神の裏をかくという意図があるのは明らかだ。

フランス語の「梯子」から転化し、アメリカの軍事用語で「三角編隊」を意味する「エシュロン」(Echelon)は、NSA主導による全地球的な通 信情報傍受システムをさす名称だ。エシュロンは電話、ファクシミリ、電子メール、インターネットからのダウンロード、衛星通 信など、一日あたり30億もの通話を自動的に、かつ無差別に傍受し、また傍受された通 信データを分析、処理し、整理された情報を主要地点にリレーするという過程を繰り返す。
エシュロンはインターネット上を行き交う通信の90%ほどを消化することのできる、旺盛な「食欲」が自慢だ。しかしエシュロンの正確な能力や目的は、今もって十分に明かされないままでいる。
UKUSAの結果アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国が署名し、エシュロンは1947に発足してから現在に至っている。
 UKUSAの目的は共通の目的、つまり世界中をスパイしてデータを共有する、というひとつの巨大かつ地球規模の情報組織を作ることであった。 この作戦はとても強固な統一性をともなうものだったため、米国家保安局のスパイはアメリカ国内から、各国地域のローカルな通 信を、その国の公式な許可なしに傍受できてしまったのだ。
それは、地球上のある国家が、社会の安全という「公共の利益」のために、自国民に対しておこなう通 信の傍受……たとえば日本の通信傍受法における問題とは、次元の異なるものである。電子メール、電話、ファクシミリ、衛星送信、極超短波通 信、光ファイバーによる通信など、現代人の日常生活と密接に関連した、現在地球上を行き交うあらゆる通 信がアメリカのNSAによって盗聴されているという、背筋の寒くなるなるような可能性があるためである。日本では昨年、通 信傍受法の是非で喧喧諤諤となったが、実はもうとっくに、エシュロンが世界中の人々の家庭に侵入していたのかもしれないのだ。

 冷戦時代では、エシュロンの主な目的は旧ソ連を監視することだった。
しかし 旧ソ連が崩壊してしまうと、エシュロンは「テロリズム」と戦うためと称して、ひきつづき数十億ドルの出費をつづけた。「テロリズム」さえ引き合いに出せば、どんな市民権剥奪行為も正当化されるのであった。
現代におけるエシュロンの問題の一つはそこにある。エシュロンによって得られた情報が、国防や大規模なテロに対する対策など、盗聴・諜報システムの本来の目的に限定して使われているわけではなく、アメリカ、イギリスなどの国家の経済戦において有効活用されているのではないか、という点である。しかも諜報活動の過程において、プライバシーの侵害は不回避なのだ。
 ほんとうのテロリストや麻薬の運び屋なら、強力な暗号手段を用いるだろう。だから、アメリカ政府は一般 民間人が強力な暗号を使用することを禁止するよう試みている。これはほんとうに犯罪を防止しようとしているのだろうか。企業秘密などをエシュロンが読むことができるような状態に、つまり通 信環境を現状にとどめておくという意図はないのだろうか。


エシュロンを主導するNSAとは?

 1952年11月4日の午前1時、秘密裡に発足した包括的通 信情報局、NSAが初めて世間にその存在を露呈したのは1960年の9月であった。当時NSA本部に暗号解読要員として勤務していた同性愛カップル、バーノン・F・ミッチェルとウィリアム・H・マーティンは旧ソ連へ亡命した。二人は自分たちの同性愛行為が発覚することを恐れ、敵国へ亡命を図ったのである。
 当時のアメリカは、現在の姿からはなかなか想像がつかないだろうが、同性愛者にとって過酷きわまりない社会だったのだ。ミッチェルとマーティンは自分たちの「性的な趣味」が発覚することを極度に恐れた。特に保守的性格の強い情報機関では、同性愛は強い制裁の対象であった。
 ミッチェルとマーティンは亡命後に記者会見を開いた。そして暗号解読における英米の連携を明らかにし、NSAが常時40カ国以上に対し盗聴作業を行っていることを暴露したのだ。
 彼らのおかげで、ソ連の情報機関はNSAという組織の実態について、大まかながらに把握することができたのである。アメリカ政府はこの亡命事件の余波で、NSA組織内部の同性愛者26人を摘発し解雇した。そして敵国に露呈してしまった組織を再構築するために、数年を要したと伝えられている。
 だが亡命者は一人ではなかった。ミッチェルとマーティンにつづき1963年、NSAの中東部門調査分析要員ビクター・N・ハミルトンが赤いカーテンの向こうに渡り、「イズベスチア」記者に対し、NSAが外交通 信のほか国連の通信をも傍受、解読作業を行っていることを克明に述べたのである。

 1968年1月23日、アメリカ海軍保安群 (NSG)の巡視船プエブロ (Pueblo)号が、北朝鮮のミグ戦闘機2機と哨戒艇4隻により日本海海上で拿捕、元山港に抑留されるという事件が発生した。このプエブロ号事件はアジアのみならず世界的にも大きな衝撃であった。そしてこの事件をきっかけに、アジアでもNSAの存在が知られるようになる。奇しくもその2日前、北朝鮮の特殊部隊が韓国大統領府を襲撃するという事件が発生したばかりであった。
 プエブロ号拿捕の理由は北朝鮮の領海を侵犯したという点であった。しかしアメリカ政府をより一層困惑させたのは、プエブロ号の正体がNSAの情報収集艦であったことが発覚したことである。アメリカ政府は北朝鮮当局に対し、プエブロ号が北朝鮮の領海を侵犯した事実を認め、今後は領海を侵犯しないという恥辱的な文書を書かされたのち、この艦艇に乗船していた乗務員全員を引き戻すことができた。
 しかし、北朝鮮はプエブロ号そのものは引き渡さなかった。というのも、この船には北朝鮮海軍の艦艇と航空機などの軍事交信の内容と、北朝鮮の通 信を盗聴する特殊な装備が搭載されていたからである。プエブロ号は元山港から平壌市内の大同江へと移送され、現在では一般 公開されている。

大同江で一般公開されているプエブロ号

 NSAの活動についての情報は、このような突発的な事件さえおきなければ、ほとんど知られることはなかっただろう。最近、ヨーロッパおよびアメリカのメディアなどが新しい事実を続々暴露しながら、NSAに十字砲火を浴びせている。しかしわずか数年前でさえ、世界を盗聴するNSAの主要活動はいぜんとして聖域だったのだ。特にアメリカ政府という全世界を相手にする通信傍受システムのエシュロンは、秘密を守るために多大の努力を傾注してきたのである。

 興味深いのは、エシュロンへの反対運動がここにきて急速に活発化し、それと同時にNSAの正体がすこしづつ現れてきているという点だ。それほどNSAは「何がおきても不思議ではない」といわれる国際スパイの世界ですら、実体不明の組織なのであった。
 これまでNSAに関する一切の情報は秘密であった。しかし90年代以後、アメリカやヨーロッパのメディアから集中砲火を浴び、その実態を徐々に露呈してきている。現在7万名ほどの職員が通信の傍受と暗号解読、アメリカの通信セキュリティ業務などの任務を遂行しているこのNSAは、敵性国はもちろんのこと、友邦国の軍事・外交・商業用暗号システムの情報までまんべんなく「横領」するという、「雑食性の情報機関」なのである。
 いまでこそ、NSAは周知の存在として姿をさらけだしている(http://www.nsa.gov:8080/)。しかし長い間、NSAにつけられた「あだ名」は、この組織の実態について想像されてきたことを雄弁に物語っている。"No Such Agency"(そんな機関は存在しない)、"Never Say Anything"(何も喋るな)……などなど。世界最高の情報機関といわれるCIAや、旧ソ連のKGBさえ、こんなにうすら寒いあだ名を頂戴したことはなかった。

 NSAの本部はメリーランド州フォートミード(Fort Meade)にある。FBIやCIAとは別の組織であり、世界を舞台に電子スパイ活動をおこなう強大な国家安全保障機関として、陸軍安全局および海軍と空軍の通信情報機関に対しても広範囲な監督権を持っている。
 現代の諜報活動は二つわけられる。科学装備を利用したスパイ行為であるSIGINT(signalとintelligenceの合成語)と、人間を利用したスパイ行為であるHUMINT(humanとintelligenceの合成語)である。そしてNSAはSIGINTの専門機関だ。
 またSIGINTは、通信情報と電子情報に大別することができる。無線通信や暗号化された外交上の通信などは通信情報であり、ミサイル発射実験の際に発生する電子信号や、核実験の際の放射線信号などは電子情報に分類される。
 NSAはまさに「空中を飛びかうあらゆる通信を飲み込む、無限の空気清浄器」だ。世界的に有名な人物の中で、NSAに声紋の特徴を知られていない人はほとんどいないという。NSAはデータとして「音声」を保有しており、通信を傍受する過程で、重要人物の音声を捕捉するやいなや、ただちに録音装置を作動させる技術を持っているといわれている。
 いったんNSAに傍受された信号情報はただちに解読、翻訳、分析などの過程をたどり、「情報」として整形され、報告書となる。この報告書は大統領及び長官など、政策決定者たちの机上にのみ配布される。報告書の配布は「センシティブな情報を閲覧する権利」を有する少数の人々に制限されているのだ。NSAから情報を支援を受ける一般の企業は、その出処に対して明確に答えることはなく、また情報にたいし定期的にアクセスすることもできない。NSA職員が許可した範囲内の情報だけを、産業・経済情報として活用するだけである。
 NSAこそは、まさしくアメリカの強力な情報力のバックボーンだ。アメリカの国防総省に属する二大秘密情報機関として、国防情報局(DIA)と双璧をなしているNSAは、パクス・アメリカーナを具現し、アメリカの世界支配を可能にする大黒柱的な存在なのである。

 スパイ活動というのは、たとえ緊密な同盟関係にある国どうしといえども嫌なものだ。 特にその目的が法の執行という目的ではなく、有力な政治家にさらに力を付けさせるための組織的な欺瞞だとしたら、なおさらである。
そこで、ヨーロッパ議会の市民自由委員会はエシュロンを調査し、エシュロンが存在すること、そしてその目的を公式に確認した。
 1997年12月、イギリスのロンドン・テレグラフ紙に掲載されたサイモン・デイビスの「わたしたちのようなスパイ」という記事は、欧州共同体がエシュロンを確認したことを公式に報告し、そのシステムについて触れている。
デイビスの記事によれば、エシュロンは、UKUSAによる情報交換システムの一部である。しかし冷戦中に開発された、ほかの多くの電子スパイシステムとは異なり、エシュロンはほとんどあらゆる国の政府、組織、企業を監視するという目的、つまり非軍事目的として開発された。
 デイビスによれば、英国議会はこの問題をずっと無視しづけてきた。英労働党がイギリス国内におけるNSAの活動について質問しても、英政府は国家機密規則を持ち出しこの質問をはねのけた。こんな状態が40年も続いたのである。

 それでもなおNSA主導による、エシュロンをはじめとする通信スパイ組織は「うすうす知られた」存在の域を脱しえなかった。
 その存在を決定的に世に知らしめたのは1999年11月初め、イギリスBBCの報道であった。BBCは11月2日、オーストラリア情報保安局(GIS)監察官ビル・ベリックは、NSAを中心とする世界的な通信傍受ネットワーク、エシュロンは実在し、また彼自身が勤務していたオーストラリア防衛通信理事会(DSD・Defence Signal Directorate)もこの盗聴網の一部であることを確認した、と報道したのだ。
 長い間、アメリカ政府はNSAという情報機関の存在自体を肯定しない方針を貫いてきた。NSAの存在だけでなく、この機関が友邦国の情報機関との協調のもと、主導的立場で運営してきた世界的な通信傍受システムのエシュロンについて、ほかならぬ協力国であるオーストラリアの情報機関の関係者が直接確認してくれたのだから、NSAとしてはかなり困惑したことであろう。

 これに引き続き、アメリカの市民団体、EPIC(電子プライバシー情報センター・Electronic Privacy Information Center。http://www.epic.org/)は1999年12月3日、NSAによる対アメリカ国民への諜報活動に関連する文書の公開を要求する請求訴訟を連邦法院に提訴した。EPICが公開を要求した文書には、いままで噂の域にあったNSAの全地球諜報システム「エシュロン」の運営と関連する、詳細な内容が含まれていることが判明した。
 エシュロンの脅威が一般に認知されるにつれ、アメリカ議会もNSAに対し文書の公開を要求したが、NSAは依頼人情報の非公開原則(Attorney/client privilege)を理由に、公開を拒否した。EPICもやはり訴訟を起こす前にNSAに文書公開を要求したが、やはり同様の理由で拒否された。
 EPICのマーク・ロテンバーグ氏は「NSAはアメリカ国内の情報は収集していなかった、と主張している。しかしわれわれは、NSAがインターネット上におけるアメリカ国内の通信を無差別に収集し、監視してきたということを信じるに値する根拠がある」と語る。

 マーク・ロテンバーグ氏は「われわれは議会が来年初め、この問題に対して聴聞会を開催することを希望する」としながら「かりにNSAがアメリカ国内のインターネット通信を監視してきたとすれば、政府はこの行為が不法なのか、それとも合法なのかを決定しなければならない」と強調した。
しかし、EPICがNSAに問うている是非は、自国、すなわちアメリカ国内の通信傍受だけに限定されている。つまりアメリカ国民の私生活を保護することにだけ神経を使っているのだ。

さらにおもしろい出来事がこれにつづく。
 1999年12月13日付の「ニューズウィーク」誌は新しい疑惑をもちだしてきた。アメリカ連邦捜査局(FBI)が、アメリカ国内のテロリストと犯罪者を追跡するために、NSAから先端技術のサポートを要求したというのだ。「ニューズウィーク」は、FBI支援を明文化するために、FBIとNSAの両者が「了解覚書」を作成中である、と報道した。「ニューズウィーク」は、通信傍受についての先端技術を持たないFBIとしては、NSAのテクニカルサポートを歓迎するものの、対外防諜業務を受け持つNSAが、国内の犯罪を捜査するFBIと協調関係を結んだ場合、NSAは一般市民に対するプライバシーの侵害を憂慮する世論からの批判に直面するはずである、と見通した。

 2000年1月21日、アメリカの民間シンクタンクである国家安全保障公文書館 (National Security Archive - http://www.gwu.edu/~nsarchiv/:これも頭文字がNSAだが、こちらはジョージ・ワシントン大学にある民間の独立研究機関および図書館。政府機関のNSAとは無関係とのこと) の研究員、ジェフリー・ライチェルソン氏は、情報公開法に基づいて機密扱いを解かれた、アメリカ国家安全保障局(NSA)の機密文書を分析し、その結果を発表した。
 それによると1994年の米空軍情報局(AIA)の文書が、このエシュロンについて言及し、「AIAの参加は在日米軍三沢基地でのレディーラブ作戦に限定されていた」とされる。レディーラブ作戦とはエシュロンの一環で、アメリカ空軍情報局によるソ連の衛星通信の秘密傍受を指すものとみられる。
 アメリカ政府は、エシュロンの存在を認めたことは一度もない。しかし「これらの文書で、エシュロンというプロジェクトが存在することを政府が認めたことになる」と、ライチェルソン氏は語る。
 だがライチェルソン氏によれば、エシュロンの実態は、一部の極端な推論よりもはるかに限定されたプロジェクトである可能性を示唆しているという。彼は実際のところ、NSAはエシュロン計画を実行するにあたって、何の法律も犯してはいないのではないか、と考えている。
 エシュロン・プロジェクトに言及していると思われる重要な文書の1つは、ウェストバージニアのシュガーグローブで展開されている海軍の安全保障活動の機能について記されている。ライチェルソン氏の主張によれば、これらの文書は、エシュロンと呼ばれるプロジェクトが、このシュガーグローブ基地に関連していることを明らかにするものだという。「この海軍の指令文書は、シュガーグローブ基地の指揮官が負っている責務の中に、USSID18の規定の定めるところに従って米国民のプライバシーを正しく保護することが含まれていることをも示している」とライチェルソン氏は語る。

 エシュロンは非常に大量の通信を無差別に傍受し、コンピューターによる語検索で価値のある情報を選別している
 エシュロンは各国それぞれについての興味深いキーワードを含んだ「国家辞書」を使用しているという。
10年以上前より、この5カ国の国家保安局は世界全体の電子通信傍受を「地域別」に行うようになった。 そして世界中のテレックス、ファックス、電子メールをこれらの「検索語」で検索できるという新しい技術が開発され、電話は自動的に語検索され解析されるという噂がかけめぐった。
 初期のエシュロンは電話回線や超短波通信データを「郵便局塔」とよばれる施設を経由して吸い出していた。しかしインテルサットとデジタル通信、さらにはインターネット発達のおかげで、英国メンウィズとその他の基地は電子メール、ファックスや音声メッセージを傍受するする能力を持つに至った……。
 この「噂」に徹底的に取り組んだのが、ニュージーランドのニッキー・ヘイガーである。ヘイガーは50人以上にわたる諜報機関関係者にインタビューし、最終的に"Covert Action Quarterly"誌でエシュロンの「辞書」の存在を初めて公開し、世界最大の諜報活動の実態が表にさらされることとなった。
 ヘイガーがニュージーランドの諜報部員から得たのは、スパイ活動が行われている場所、エシュロンの作動方法、能力と欠点、またコードネームのようなたくさんの詳細な情報だった。
 ヘイガーの得た情報は、以下の通りである。
 エシュロンのメンバーは米国家安全保障局(NSA)、イギリスの政府通信本部(GCH)、カナダの通信保安庁(CSE)、オーストラリアの防衛通信理事会(DSD)、そしてニュージーランドの政府通信保安局(GCSB)である。
エシュロンは特定の個人の電子メールやファックスを「狙い撃ちで」傍受するようには設計されていない。傍受は世界中の通信に対して無差別に行われ、興味を引く特定のメッセージを確定し抽出するのである。
国際的通信ネットワークを監視するために秘密の通信傍受基地が世界中に設置され、そのいくつかは地上の通信だけでなく通信衛星にまでおよんでいる。各基地のコンピューターは、あらかじめプログラムされた検索語を用いて天文学的な数の通信を自動的にサーチする。またエシュロンはこれらすべての通信傍受基地を連結し、この能力とデータを共有している……噂はほんとうだったのだ。
 「検索語」にはある地域について考えられるすべての名前、地名、話題などを含んでいる。さらに、ある特定の電話番号や電子メールアドレスが含まれていないかも自動的に検索される。
 各基地にある「辞書」は、その基地の親政府機関だけでなく、他の政府機関によっても補強される。
 各基地の辞書が該当語を含むメッセージを見つけると、そのメッセージは自動的に取得され、管轄の親政府機関に送信される。外国の情報機関のために送られるメッセージを、取得した当該国の情報機関は見ることができない。
 ややこしい言い方だがこういうことだ。例えば、アメリカはニュージーランドのある基地の辞書を「補強」することができる。でもその基地が発見した「アメリカ情報機関向け」メッセージは、ニュージーランドの情報機関は閲覧できない仕組みだ。5カ国間にこの仕組みが行き渡っている。
 
 アメリカ国内に存在する外国公館や企業などが本国と交信する内容は、メリーランドとバージニア州郊外にある盗聴基地が担当している。これと同時に世界各地に設置されたNSAの主要基地を通じて、世界のあらゆる通信を入手している。通常、世界各地に設置されたNSAの主要基地は、NSA名義ではなく米軍情報機関の名義で保護されている。
 1981年、ニュージーランド政府はアメリカのヤキマ基地と連携を密にし、日本の外交通信を傍受するよう目標を定めた。ヤキマ基地で傍受された通信は、翻訳と解読のためニュージーランドのウェリントンに送信された。のち1989年にニュージーランドのワイホパイ島基地が設立されると、日本関係の通信はここが一手に引き受けることになり、現在に至っている。
 最初のエシュロン基地は国際通信衛星(インテルサット)を標的にした。インテルサットは赤道上を輪のように配置されており、夥しい数の電子メールや電話を同時中継している。このインテルサットを傍受するために、つぎのような5つのエシュロン基地が設置された。
 各基地の所在地と目的は、たとえば、
 *英国:コーンウォールのモーゼンストウにある海に面した崖の上。大西洋、ヨーロッパ、インド洋上の衛星が標的。
 *アメリカ:ワシントンDCから南西250Km離れたウエストヴァージニア山脈のシュガー・グローブ。南北アメリカに信号を送る大西洋上の衛星が標的。またシアトルの南西200Kmにある陸軍ヤキマ発射センター(Yakima Firing Center)内にも基地があり、これは太平洋上の衛星が標的だ。
 またこれより東側の太平洋地域はオーストラリアとニュージーランドの管轄となっている。

 各基地の「辞書」は「コード名」を持っており、ほかの辞書と区別される。例えば上記のヤキマ基地は「カウボーイ辞書」、ニュージーランドのワイホパイ島基地は「フリントロック辞書」と呼ばれている。傍受されたすべてのメッセージは各「辞書」の名称が記録され、どこの基地が取得したメッセージなのかを識別するようになっている。
 さらに、インテルサット以外の人工衛星通信を傍受するための基地設立がここにくわわる。上記の基地にくわえ、5つ以上の基地がロシアや他の地域の衛星を標的にしている。
 北イギリスのメンウィズ、北オーストラリアのダーウィン近郊(インドネシアの衛星を標的とする)、カナダのオタワ南にあるレイトリム(ラテンアメリカ地域の衛星傍受)、ドイツのバッドアイブリング、そして日本の三沢基地にその代表的なエシュロン基地がある。
 埼玉県大井町亀久保にある、防衛庁情報本部大井通信所にもエシュロンの基地の一つがある、という噂も聞く。
 海底ケーブル通信も、いったんデータが「海上に」来るやいなや、エシュロンの餌食となる。
 1982年には、海底ケーブルに仕掛けられた盗聴装置が発見されている。しかし現在のところ、エシュロンの通信監視装置が、光ファイバーを通過するデータを傍受することが可能かどうかについては、知られていない。


 このような暴露は、NSAをめぐる論争で画期的な進展を意味する。アメリカにとって、NSAがこれまで、地球上のほとんどあらゆる通信を盗聴してきたという事実は公然の秘密ではあった。しかし問題はそれがあくまでも未確認の主張にとどまっていたという点であった。NSAの正体が「確認」されたのである。
 オーストラリア情報機関の関係者が「暴露」したことで、NSAは否応なしに論争の渦中に立たざるを得なくなった。諜報機関はどの国でも同じなのだが、NSAという秘密の諜報活動を行う情報機関の特性上、いかなる外部からの質問についても、公式の対応を行わない、という方針を貫きつづけたにもかかわらず、今回の暴露によってそのような過去の行動に深刻なブレーキがかかるようになったわけだ。オーストラリアDSDは、以前にもオーストラリア国内のある放送局との書面インタビューで、エシュロンの存在と運営の実態を暴露した前歴がある。
 NSAはさまざまな面で疲辟しながらミレニアムを迎えた。すでにインターネットユーザーたちは、NSAに対し「公開攻撃」を開始している。アメリカおよびヨーロッパ議会加盟国のネットユーザーの動きも尋常ではない兆しをみせている。創立以来最大の試練を迎えたNSAが、どのように危機を突破するか、関心が持たれている。
 NSAに対するネットユーザーの攻撃ぶりを端的に見せているウェブサイト(www.echelon.wiretapped.net)がある。このサイトは1999年10月21日を「エシュロンを麻痺させる日(Jam Echelon Day)」に決め、全世界のネットユーザーに対し、NSAへの攻撃命令をくだした。
10月21日に、特定の単語リストを自分の電子メールに付記するように呼び掛けたのだ。Wired News日本語版(http://www.hotwired.co.jp/news/news/3170.html)はこの単語リストを発表している。

 FBI(米連邦捜査局)、CIA(米中央情報局)、NSA(米国家安全保障局)、IRS(米国税庁)、ATF(アメリカ教育連盟)、BATF(米アルコール・タバコ・火器局)、DOD(米国防総省)、WACO(ウェーコ)、RUBY RIDGE(ルビーリッジ)、OKC(オクラホマシティー)、OKLAHOMA CITY(同左:以上4つテロ事件があった場所)、MILITIA(米国民軍)、GUN(銃器)、HANDGUN(拳銃)、MILGOV(軍事政府)、ASSAULT RIFLE(突撃銃)、TERRORISM(テロリズム)、BOMB(爆弾)、DRUG(薬物)、HORIUCHI、KORESH(コレシュ・米国の宗教家)、DAVIDIAN(ダビディアン教団)、KAHL、POSSE COMITATUS(民兵隊壮年団)、RANDY WEAVER(ランディー・ウィーバー)、VICKIE WEAVER(ビッキー・ウィーバー)、SPECIAL FORCES(特殊部隊)、LINDA THOMPSON(リンダ・トンプソン)、SPECIAL OPERATIONS GROUP、SOG、SOF(以上3つ特殊戦部隊)、DELTA FORCE(デルタ部隊)、CONSTITUTION(憲法)、BILL OF RIGHTS(権利章典)、WHITEWATER(ホワイトウォーター)、POM(パークオンメーター)、PARK ON METER(同左:イランコントラに関わった企業)、ARKANSIDE、IRAN CONTRAS(イランコントラ)、OLIVER NORTH(オリバー・ノース:イランコントラ関係者)、VINCE FOSTER(ビンス・フォスター:クリントン大統領弁護士)、PROMIS、MOSSAD(モサド:イスラエルの情報機関)、NASA(米航空宇宙局)、MI5(英国諜報部)、ONI(海軍情報部)、CID(ロンドン警視庁刑事部)、AK47(旧ソ連製突撃銃)、M16(米軍突撃銃)、C4(爆薬)、MALCOLM X(マルコムX)、REVOLUTION(革命)、CHEROKEE(チェロキー)、HILLARY、BILL CLINTON(ヒラリー/ビル・クリントン)、GORE(ゴア)、GEORGE BUSH(ジョージ・ブッシュ)、WACKENHUT、TERRORIST(テロリスト)、TASK FORCE 160、SPECIAL OPS、12TH GROUP、5TH GROUP、SF(以上5つ特殊部隊関係)。
(「『エシュロン』を陥れるハッカーたち」(http://www.hotwired.co.jp/news/news/3170.htmlより)

 もちろんこの当日には、NSAのコンピューター・ネットワークやエシュロンが実質的な被害を蒙った、といういかなる消息も言論に報道されることはなかった。
 しかし今年(2000年)に入って、NSAのコンピューターは、いわゆる「過負荷」によるシステムダウンを経験する。ZDNewsは2000年1月31日、この事故をトップ記事として報じている。

米国家安全保障局のコンピュータに障害――原因は大量傍受による過負荷?

 【米国発】 2000.1.30 9:53 AM PT
 米国家安全保障局(NSA)は1月29日、同組織のコンピュータシステムが「深刻な」障害に見舞われ、24日から3日間にわたって諜報データの処理に支障をきたしたことを明らかにした。
 NSAは、米国にとってセキュリティ上の脅威となる可能性のある国外での会話を傍受している組織。同日発行されたリリースによれば、問題は解決済みで、「重要な情報は失われていない」ことを確信しているとしている。
 しかし、NSAはメリーランド州フォートミードにある本部のコンピュータ復旧のため、数千人時にも及ぶ技術者の手と、150万ドルの費用を費やしたという。
 「NSA本部は2000年1月24日午後7時(グリニッジ標準時午前零時)、深刻なコンピュータ障害に見舞われた」。NSAは、めったに発行されることのないプレスリリースの中でこう述べている。
 このリリースによると、コンピュータシステムは72時間にわたって影響を受けたが、現在では「平常通りの稼動の範囲内で」稼動しているとのことだ。

諜報データには支障なし

「この障害によって、収集した情報そのものが影響を受けることはなかったが、情報の処理には支障をきたした。情報処理のバックログはほとんど完全であり、NSAでは重要な情報が失われたことはないと確信している」。プレスリリースはこう説明している。
 このトラブルは、昨年12月31日、米国の重要な偵察衛星に障害が起きたことに続くものだ。偵察衛星の障害は、広く知られている中では最も深刻な2000年問題。一連の米国の衛星が米国に敵対的な武装グループの動きを監視して送信してくる画像の処理に関して、地上基地局側で誤作動が起きたものだ。
 NSAは、その超極秘級の活動のためワシントン周辺では「No Such Agency(そのような組織は存在しない)の略だ」と言われるほどの存在だが、今回のトラブルは、冷戦後の役割を見直し、ハイテクへの対応が遅れた組織としてのイメージを払拭しようとする中で起きた。
 NSAのコンピュータ障害を最初に報道したABCニュースは、NSAディレクターであるMichael Hayden米空軍中将のコメントとして、今回の問題はY2K関連のものではなく、大量の情報を傍受したことによるコンピュータシステムの「過負荷」が原因だと報じている。
 また、Washington Post紙によれば、ある高官はこの問題を「ソフトウェアの不具合」と説明しているとのことだ。「現時点で、今回の問題はシステムが日常業務の負荷に耐えかねたものだったという以外の証拠はない」。同紙によれば、この高官はこう語ったとされる。
http://www.zdnet.co.jp/news/0001/31/nsa.html



 この他にも、インターネット上にはNSAとエシュロンの「陰謀」を糾弾する数多くのサイトが、活発な活動を繰り広げている。たとえばアメリカ市民自由連合(ACLU)は、他の市民団体と連合し、アメリカの各地域の住民に対し、議員がエシュロンを調査するよう促すための運動を大々的に行っている。

 エシュロンによるプライバシー侵害への憂慮は、NSA叩きと連動している。いままでNSAの秘密活動にどちらかといえば寛大であった西側諸国でも、エシュロンに対する正確な調査と不法運用の可能性に制裁を加えようという政治家たちが、ごく少数ではあるが出現している。

 米共和党のボブ・バー (Bob Barr)下院議員は1999年11月9日、下院で情報法を修正し「エシュロンの運用の実態がメディアに報道されていることと同じならば、憲法の尊厳を尊重するあらゆるアメリカ市民は深刻な憂慮を表明しなければならない」としながら、NSAをはじめとする情報機関の職権乱用を暴く聴聞会を開催せねばならない、と主張した。NSA、CIA、司法省を対象にしているこの修正情報法は、現在上下院会議委員会に留まっており、何らかの動きを待っている状態だ。(http://wired.com/news/infostructure/0,1377,32586-2,00.html)
 すでに昨年1月、アメリカ下院の情報委員会はNSAに対し、エシュロンと関連した書類を提出することを要求したが、NSAはこれを拒否した。イタリアの司法当局もエシュロンの運営に対して法的に規制する動きを見せている。ローマ地検は、NSAの盗聴活動がイタリアの法律に違反しているかどうかの調査を開始した。

 もちろんNSAは、伝統的ともいえる姿勢でこのような圧迫に沈黙という立場を貫いている。NSAは、メディアがときどき提起する不法盗聴盗聴疑惑に対して「事実とは異なる」と、短く答弁するにとどまり、喧喧諤諤の論争に巻き込まれまいとする態度を見せている。それどころかNSAは、アメリカ議会とメディアに向け、諜報活動を強化することへの必要性を力説しているのである。


 昨年12月27日のロイター通信によれば、NSAは11月15日、「変化の100日」を宣言した。スパイ衛星と全世界の盗聴基地、そして海外の信号情報を収集する方法を「現代化」するという計画である。

 しかし、アメリカ政府が国家の安全保障という錦の御旗をかかげ死守してきた「沈黙の壁」は、徐々に崩壊しつつあるようだ。昨年3月にエシュロンを構成する国家のひとつであるオーストラリア政府が、自国の情報機関DSDを通じてエシュロンの存在を認めたことが、その最初の兆候であろう。