| いずれにせよ、救いの手は伸びてくる。12月、ジミー・カーターはアメリカの最も先進的なスパイ潜水艦とするために、海軍の電子ボートの改修に8億8,700万ドルの契約を裁定した。
消息筋によれば、2004年の完成の暁には、このシーウルフ級潜水艦は海底光ケーブルを盗聴するための最高機密の「ポッド」を設置、補修することが可能となる。海軍はこの改良を「監視、地雷戦争、特殊戦争、弾頭補修とより先進的な通信」のためのものであると発表している。
しかし、NSAは暗号化技術の独占状態を喪失したままである。解読はまず不可能と考えられる暗号ソフトがこんにち、インターネット上に流通している。CIAの発表によれば、ヘズボラ、ハマスとオサマ・ビン・ラベンの組織など、いくつかのテロリストグループが暗号化技術を使用している。
「これは本当に挑戦的なことだ」。ワシントンにある独立した非営利組織、国家保安書庫(National Security Archive)を運営しNSAを追跡しているジェフリー・T・リチャードソンは語る。
また別の問題が生じるのだ。標的がうまく逃げおおせる場所がより増えてしまうのである。
ソ連の崩壊以後、NSAはセルビアや北朝鮮などの極悪な政治体制と同様、超国家的なテロリスト、麻薬密売組織、組織犯罪や犯罪者の雲をつかむようなネットワークを追跡してきた。
「彼らが合わすべき、ドラッグと犯罪の焦点はより大きくなった」と語るのは、ワシントンにあるアメリカ科学者連合の諜報専門家、ジョン・パイクだ。「それゆえ、彼らはより大きな干し草の山から、より小さな針を探しているのだ」。
同時に、NSAはしばしばsigintという用語で知られる信号諜報(signal intelligence)を収集している……それは上手くいったとしても紛らわしいものだ、とNSAの通信傍受について定期的に研究している、ある諜報機関の高官は語る。
「sigintがうまくいくのは稀だ」とこの高官は語る。「たいていの場合、それは非常に断片的だ。傍受できるのは、何かについての小さな一部分だ。自分が何を傍受しているのかさえ分からないことも多々ある」。
ふたたび、救いの手はのびる。議会は今後5年から7年のあいだに、数十億ドルの小型低高度スパイ衛星システムを構築するための予算を承認した。この新しい「鳥」は、2002年から開始された、NSAが地球上のローカルな通信やレーダーを傍受するのに役立つはずである。
不特定多数のアメリカ人にとって、NSAは1952年の秘密政令(secret executive order)以後に創立されたアメリカの諜報の礎である。長いこと、冗談めかして"No Such Agency,"(そんな組織は存在しない)として知られ、現在もなお匿名性を指向している。
ボルティモアとワシントンの中間の、高い樹木の背後にある巨大なマジックミラーの集合建築物と、衛星パラボラアンテナを指し示す交通標識は存在していない。
正確な数字は秘密だが、NSAはおよそ35,000人もの、世界中の人々を雇っているといわれている。
それは冷戦時の半分だが、しかしそれでも、人間に関する諜報を扱うCIAの二倍の大きさである。 NSAの年間予算は50億ドルと推測されている。しかし、信号諜報への全体的な出費はおよそ100億ドル、あるいはアメリカの13の諜報機関へ議会が承認した予算の3分の1以上である。
成功と失敗がNSAを形づくる:
先月の、ヘイデンはNSAの「神秘性のいくばくかを拭い去る」希望があることをスピーチした。 「テレビで放映されているにもかかわらず、われわれの機関はエイリアンの解剖も、衛星を使って誰かの車を追跡することもなければ、暗殺部隊を有しているわけでもない」。彼はアメリカン大学の学生にそう語った。NSAの成功は十分だ: 数年間をかけて、NSAは船の中のキューバ指導者たちの会話や、リムジン車内のクレムリンの指導者たちの会話を聞いてきた。 彼らはオーストラリア駐在中国大使館を、コロンビアのカリ・ドラッグカルテルの電話を盗聴し、パンナムジェット爆破容疑者のリビア人を特定した。 彼らは軍司令部や貿易会議さえも盗聴した。
「もし座りながら、他人の基本交渉プランと、それにつづく三つの次候補プランを入手したなら、かなりいい線をいっているということだ」。前レーガン政権時のホワイトハウスの諜報担当官はこう語った。 「それはNSAがわれわれに与えたものなのだ……。 信じられないほどの良質の情報がつねに流れてきた」。だが、失敗は無視できないものである。 インドが1998年5月に一連の核実験のテストを準備していることを警告できなかったNSAは、さんざん非難された。インドの宿敵パキスタンはただちに自国の核兵器をテストし、インド亜大陸は世界でもっとも危険な発火点となった。
しかし現在、NSAは聞いている。
1998年のテストからすぐに、この核を保有する両国政府と軍の、何千もの通信回線と周波数を盗聴するため、オリオン衛星が軌道に乗った。
NSAはヨーロッパから最も手厳しい非難を受けた。先月、欧州議会は公聴会にてNSAと、諜報能力を悪用していると言われている、NSAに協力している英語圏諸国を弾劾した。NSAがアメリカの企業を手助けするために、秘密の通信傍受を行っているという申し立てに対して、批判が集中した。
欧州議会は部分的には正しい。NSAが私企業に情報を提供する権限はないのである。しかし情報機関の高官は、NSAが傍受した情報は、贈収賄やその他の不正行為でアメリカの企業を出し抜こうとする海外企業を「密告する」ために使用されたのだ、と語る。
例えば1990年初頭、インドネシアがある長距離通信契約について競争入札をもとめた。「われわれはごまかされていたのです。すでに日本が取り引きに割り込んでいました」。高官は回顧する。「われわれはこの問題について、インドネシアに回答を求めました。結果として、アメリカの企業がこの契約の一部をとることになりました」。
インタビューで、ヘイデンは五月以来、彼を非難する人々から受けている、二つの主要な苦情に対して神経をすり減らしていた。「ひとつは、われわれが全知の存在であり、あらゆる人々の電子メールをすべて読んでいる」ということです、と彼は語る。「もう一つは、われわれが無能だ、ということです。どちらも間違いなんです」。
だが、ヘイデンはNSAは改革が絶望的に必要であることは認めている。「NSAは信じられないほど孤立した機関です。まわりには高い壁がはりめぐらされています。秘密を内部にとどめておくためです。でもそれは、新鮮なアイディアを遮断してもいるんです」。
職員との意思疎通:
反撃のために、ヘイデンはNSAの行動様式と使命に変化を与えるという野心的な計画をうちあげた。彼は暗号技術に新しい目的を設定し、部課を再編し、意思決定の能率化をはかった。秘密を守るべき機関にとっておそらく最も注目すべきことに、彼はNSAの秘密任務に携わる職員と意志の疎通をはかったのだ。
毎週月曜日、ヘイデンはNSA職員のための、NSA内専用テレビ番組に出演する。彼は、連邦議会での彼の証言について議論し、NSAのオペレーション・センターからひとりで、またヨーロッパから電話で出演した。
彼はまた、世界中にちらばるNSA職員にむけて秘密の電子メール新聞を発行する。最近の"dirgrams"、ディレクターのメッセージは、「トランスフォーメーション・オフィス」がどのように現代化を監督しているかを説明し、新しい戦略プランへのフィードバックを求めている。
「職員たちはすでに11,000回以上、返信ボタンをクリックしていますよ」。ヘイデンはにやにやしながら言う。「彼らが私にメールを送るよりむしり、彼らが信号諜報にいそしむかと思ったんですがね。でも、私は全部に目を通しています」。
そうして、1月27日早朝、ヘイデンはNSA全体の上層部に緊急ミーティングに招集した。それは彼が「2000年の大停電」と呼ぶ事件の三日目であった。ブリザードのためオフィスは二日間閉鎖されたため、多くのスタッフは、あらゆるコンピューターが停止した、ということを知っただけだった。
何百もの言語学者、数学者、技術者たちがメイン・ビルディング内のフリードマン講堂に詰め掛けた。また数千ものほかの職員が、NSA所内全体に行きわたっている、所内専用テレビのモニターを観ていた。
ヘイデンは彼が知っていることを説明した。衛星その他のシステムはまだ生諜報データを収集しつづけている。しかしそれらを選別し分析するコンピューターが復帰しない限り、アメリカの国家セキュリティは類例があまりないほどの危険にさらされる。
反応は水を打ったように静かだった。「心の動きまで音に聞こえるような気がしましたよ」とヘイデンは語った。
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